さえたん日記

アクチュアリーを目指す方々にお役立ちな情報を載せていきます!

年金アクチュアリーに必要なスキル②(説明力・応用力・多角的な分析力)

 前回記事に続き、説明力、多角的な分析力、応用力について解説いたします。

数理計算を行う上でも、制度コンサルティングを行う上でも、これらの能力はとても重要なスキルだと感じております。

 

年金アクチュアリーの説明力には、

①年金数理人として計算結果をお客様や営業さんに説明する力

②制度提案に際して、お客様に訴求していく力

の2種類に分類できるかと存じます。

 

①年金数理人として計算結果をお客様や営業さんに説明する力

こちらは、いっちー様のブログで詳しくご解説頂いている通りです。

アクチュアリーに必要なコミュニケーション能力とは? : いっちーのアクチュアリーノート

年金アクチュアリーに必要な説明能力【具体例1】 : いっちーのアクチュアリーノート

 

②制度提案の際、提案の内容とそのメリット・デメリットを説明した上で、お客様に訴求していく力

 

 個人的には、お客様に「ご理解」いただくことと、「ご納得」いただくことには大きな差があると考えております。

 

例えば。

給付減額といった不利益変更となりうる制度変更に対して、制度変更の内容やロジックを「理解」はできるが、「納得」はできない方もいらっしゃるかもしれません。

そこで先方の担当者様はこう仰ります。

「どのような説明なら従業員が納得してくれるのか、一緒に考えて欲しい」と。

 

 それに対して、年金アクチュアリーは、数字の力や法令の知識、業務経験によって培われたノウハウを駆使して、どういった方策が考えられるのかを一緒に考えていくことになります。

 

 法令上の建付けや、コスト面での制約といったあらゆる制約の中で、やはり全てのステークホルダーがご満足いただくような制度設計が必ずしも可能という訳ではなく、あちらが立てばこちらが立たずといった状況に陥ってしまうこともあります。(むしろそういった難しい案件だからこそ年金アクチュアリーにヘルプが飛んでくるのだと思います)

 なればこそ、その両方を立たせる第3の案を生み出すことが、年金アクチュアリーの役目なのだと考えております。

 

 

まずは、

・お客様のニーズ把握、現状の課題分析

・他社比較でお客様の会社の給付水準等はどうなのか?

・お客様のご要望にお応えできること・できないことは何なのか

・お客様のDB・DC・退職給付会計の知識レベル

・お客様と弊社の関係性

ステークホルダーのDB・DCについてのお考え

・お客様の会社の労使の力関係

 

 様々な点を考慮し、お客様の反応を見ながら、説明の仕方も柔軟に変えていく必要があります。その上で、以下のような観点から制度設計を考えていくことになります。(以下に挙げた事項は序の口ではあるのですが…)

 

・法令の建付け上問題ないかどうか

・従業員様にとって制度変更するメリットは何なのか(制度変更によるデメリットをカバーし得るだけのメリットは何なのか)

・制度変更による財政、会計インパクトはどの程度になってくるのか

・既存従業員への経過措置(制度変更時点の加入者ごとの給付水準に差異が生じる場合の過去分補填等)

・制度変更後、数十年間スパンでみた影響としてどんなものが考えられるのか

・今までの実務経験からどんなことが予測されるのか?

・既存DBDC退職一時金制度への影響の有無・その影響の程度

・業界の中で影響力の強い会社やグループの親会社であれば、他企業への影響

 

 以上を検討するための多角的な分析力は実務経験によって培われる部分が大きい故か、私の部署はベテランの方ほど柔軟な思考を持った方が多いように感じております。

メジャーなのは、定年延長、DC移行(退職一時金原資かDB原資かによっても変わってきます)、ポイント制移行、ジョブ型導入といったところでしょうか。それぞれセオリーはあるものの、どの会社にも必ず通用するわけではないのがまた難しいところで…。

会社の給付設計によってはこのセオリーが通用しないことも多々あり、ステークホルダーのお考え一つで白紙になったり…。

 

 この世にあまねく存在する会社の数だけ、退職給付制度のカタチがあって、その裏には退職給付制度創設時のお客様の理念・ポリシーや、当時の法令による制約や、お客様の会社独自の事情があり、

それら全てをケースバイケースで考えて、今までの事例から応用できること、最善の提案は何なのか。次善の提案は何なのか。

 先述したように、全ての会社に必ず応用が利く万能薬というものは無いからこそ、数理的素養や法令の力、今まで培ったノウハウを総動員した上で、お客様にとっての最善を私達は追求しつづけているのかもしれません。

 

 学生の時は、年金アクチュアリー≒DBという認識でおりましたが、お客様や営業さんから「私的年金の専門家」として求められる立場となって思うのは、DBのみならずDC制度設計や退職給付会計に関する知識も併せ持っていなければ、これらには対応できないということですね…。数字の力を武器とするからこそ、アクチュアリーだからこそ数字に呑み込まれてはいけない、数字の裏側にあるものを忘れてはいけないと肝に銘じつつ、まだまだ未熟な身ゆえ、更なる研鑽を積まねばと痛感する今日この頃です。

 難しいテーマだけにとりとめのない乱文雑文となってしまいましたが、企業年金の奥深さを感じて頂けましたら幸甚です。