さえたん日記

アクチュアリーを目指す方々にお役立ちな情報を載せていきます!

インタビュー企画第4弾!【様々な分野でご活躍しているアクチュアリーってどんな人?】

ー超難関資格。高学歴。アクチュアリーとは、一体どんな人達なのか?-

さて、今回で、インタビュー企画第4弾となります!! 

 

今回の企画では、海外でのご活躍にとどまらず、様々な分野でご活躍の幅を広げておられるアクチュアリーの方にインタビューしてみました!! 

 

それでは、ご高覧ください!

 

 

1.今、ご関心を持たれているトピック

 

2.データサイエンスの今後の展望について

 アクチュアリーの業務の多くは、モデルを用いて不確実性を伴う課題を解決することにあります。モデルには、生保数理、損保数理、年金数理のようないわゆる伝統的なモデルから、データサイエンスのような現代的なモデルを含む幅広い概念です。アクチュアリーが扱うモデルの範囲は、時代の変化とともに増えています。アクチュアリー試験の歴史を振り返ってみても、2000年に損保数理が追加されて以降、モデリングやコピュラ・リスク尺度・極値理論なども追加されてきました。2017年には国際アクチュアリー会シラバスが改定され、データサイエンスについてもアクチュアリー教育に含まれることになりました。なぜこのような動きになっているのかを考えると、アクチュアリーのコア・バリューが不確実性を伴う課題を解決することにあり、そのために利用可能なツールが増えているからです。便利なツールが増えているのに使わないのは勿体ないですよね?ただ、機械学習の自動作成ツールなどが普及するにつれて、正しく解釈できないユーザーが増えているという負の側面も生じています。また、AIに対する過度な期待を持つ人もいます。モデルはあくまでも現実の世界の事象を簡略化して表現したものであり、そこには一定の限界があります。その限界を理解しつつも、データサイエンスの活用領域を広げていくという、社内のコントロールタワーとして活躍するアクチュアリーが今後求められてくると考えています。

 

3.海外のアクチュアリーと日本のアクチュアリーを比較したうえで、お感じになられていることとは?

 アクチュアリー業務を行う中で感じる違いとしては、「ジャッジの範囲」ですね。

海外の保険商品を見ると、日本人的にはどうやって保険料を計算しているんだろうと思うような商品があります。例えば、特定のアプリを使うと保険料が10%割引になるような商品もあります。日本人的な発想だと、アプリを利用することで発生率が下がるというデータがないと商品組成できないと思いがちですが、彼らは収益検証を行った上で問題ないとアクチュアリーがジャッジすれば保険料を割り引けます。また、企業年金の数理計算報告書を見ても、日本では定型のフォーマットが多いですが、海外ではアクチュアリーのコメントが多分に含まれます。海外の場合、個々のアクチュアリーが会社に依存せずに働いているという印象を受けることもあります

 

 アクチュアリーと大学という側面でいうと、海外にはアクチュアリーの勉強ができる大学が多くあります。大学でアクチュアリーを専攻した学生がアクチュアリーになるというルートが王道です。英国では、試験免除制度を導入しており、所定の授業の単位を取ると、アクチュアリー試験の科目が免除されます。北米では産学共同の研究も盛んに行われています。例えば、死亡率モデルを大学に委託して開発し、そのモデルを実務で活用するということも行われています。シンガポールの大学でもサイバーリスクの委託研究を行うなど、産学共同の動きが盛んです。大学との連携は日本では弱い部分であり、今後強化していく必要があると感じています。

 

 日本でのアクチュアリー教育は変わりつつありますが、その変化のスピードは諸外国よりもかなり遅れています。米国や英国よりも遅れているのであれば納得できるかもしれませんが、オーストラリア、シンガポール南アフリカなどよりも、かなり遅れています。結果として、同じアクチュアリー採用でも日本の新入社員と海外の新入社員ではスタート時点でかなりの差がついています。例えば、データサイエンスは、先進国ではすでに試験科目に入っています。日本でもCERA試験を行っていますが、英国では合格率が40%のところ、日本では10%程度です。理由はいくつかあるんですが、一次試験で習う内容がかけ離れているという点があります。海外に触れるアクチュアリーが増えると、もう少し課題意識を持つ人も増えるかもしれませんが、残念ながら今は少数派です。

 

4.日本アクチュアリーの国内での地位向上のために、ひいては、国際的な地位向上のために、できることとは?

  保険や年金以外の非伝統的分野でどれだけ活躍できるかですかね。伝統的分野であれば、先人のおかげで一定の地位を築けていると思いますが、非伝統的分野にいくと知名度は皆無です。SNSなども含めた継続的な広報活動と、様々な分野で活躍するアクチュアリーが増えると地位も向上すると思います。

 

 国際的な地位向上のためには、対等に議論できる英語力が必要となるので、少しハードルが上がります。国際アクチュアリー会などの国際機関での活動に貢献できれば、日本の地位も向上すると思います。

 ちなみに、海外ではもう少しアクチュアリー知名度は高く、国境を渡る際に職業を聞かれてアクチュアリーと言えば通じたり、タクシーの運転手との何気ない会話の中でもアクチュアリーが通用したりということを体験したことがあります。もちろん、場所にもよりますが。

 

5.日本のアクチュアリー界の今後の展望について(20年後、50年後など長期的スパン)

 これは難しい質問ですね。今から20年前にはスマホもなかったし、50年前だとそろばんで計算していたような時代なので。実際、当時は実務を行う上で、そろばんは不可欠だったと聞いたことがあります。でも、今はパソコンを使っていますよね。20年先、50年先にどんな技術が登場しているのかは予測できませんが、それをうまく実務と教育に取り込む形でアクチュアリーも変わっていくことになると思います。データサイエンスはその一つではないでしょうか。

 

6.日本の企業年金業界の今後の展望(20年後、50年後、100年後など長期的スパン)

 これも難しい質問です。企業年金の展望は、日本企業の展望と似た質問なので、誰にもわからないと思います。人口減少で経済は衰退するという意見もあります。技術革新があれば違いますが、ベンチャーを育む土壌も米国に比べると未成熟な状況です。経済が成長すれば、企業年金も発展すると思いますし、逆もしかりです。

 日本の企業年金は、米国や英国に比べるとうまくいっていると感じています。DB制度もそれほど減っていません。現在はDC制度の普及に軸足を置いているように感じる場面もありますが、DBにはDBの良さがあると思います。ただ、会計上に現れる数字だけ見ると、その価値を負債や費用だけで捉えてしまいがちです。企業年金はそもそも人事制度の一環として実施しているものであり、優秀な従業員を引き付ける役(Recruit)、優秀な社員を引き留める役割(Retention)、一定の年齢になると新陳代謝を促す役割(Retirement)の3つのRの機能があると言われています。でも、それは会計上の数値には現れません。そんな目に見えない価値を見える化できるとしたら、事業主も企業年金の価値を再認識するかもしれません。そして、そんな手法をアクチュアリーが確立できたらよいなと思っています。

 

7.複数の分野(生保・損保・年金)で活躍することについて

 複数の分野で活躍すべきかどうかと問われると、お勧めはしないと回答すると思います。二次試験で勉強した分野で、馴染みのある人脈の中で業務を行っていくのがキャリア形成の上で一番効率的だと思います。分野を変えると、また一から勉強する必要があります。新たな人脈を築き、信頼を獲得するのにも時間がかかります。結果として分野をまたぐことはあるかもしれませんが、それを目的とすべきかと問われるとNOで、まずは自分の専門分野で活躍する道を模索すべきと答えると思います。

 

 一方で、複数の分野で活躍することのメリットとしては、メタ認知できるスキルが高まる、ということですね。アクチュアリーの役割とは、課題を解決することだと考えています。年金であれば、企業年金が持つ課題、保険であれば個人が持つ課題、リスク管理やデータサイエンスであれば現業部門や経営陣が持つ課題を数理的なスキルで解決することという意味です。もちろん、そのためにはルール(二次試験で勉強する規制など)を知る必要があります。ただ、このルールも暗記するのではなく、当然こんなルールがあるはず(自分だったらこういうルールを作る)という感覚を持つことができるようになります。

 

 

8.日本のアクチュアリーが、海外で活躍することについて 

 損保は、リスクを地理的に分散する必要があるので、海外のビジネスも多く、留学する人も見かけます。生保も株式会社であれば、海外進出を積極的に行っており、海外人材を育成している印象を受けています。ただ、海外志向が強くなっているのかと言われると微妙です。少なくとも、年金はそうではなく、生保も会社によるので何とも言えません。海外に行くことの効用としては、日本は規制が強い国なので、日本にいると規制の範囲内で物事を考えるという思考回路になりがちです。海外ではもっと自由に保険商品を作ったり、企業年金の位置づけが日本とは違うこともあるので、発想が豊かになると思います。そして、イノベーションを生むにはthink out of the box的な発想が必要だと思います。

 

 海外には目を向けてほしいと強く思います。理由は、思考の軸が増えるからです。日本にいると思考回路が日本人的になるし、会社にいると知らず知らずの間にその会社に染まっていきます。アクチュアリーにとって客観的に物事を見るというのは重要なスキルです。英国アクチュアリー会の有名な文献の一つに「making actuaries less human」があります。行動経済学アクチュアリー業務への応用を論じた文献ですが、客観性の大事さを伝えるものでもあります。思考の軸を増やすことで、物事の本質が見えるようになるかもしれません。

 

9.アクチュアリー教育の裾野について、どうお考えですか?

 アクチュアリー教育には、初期教育と継続教育の両面があります。初期教育は正会員になるまで、継続教育は正会員になってからの教育です。日本では、初期教育の大部分をアクチュアリー会が担っています。現在、早稲田大学やシグマ、セミナーインフォなどいくつかアクチュアリー教育を受けられる講座もありますが、欧米に比べると圧倒的に少ないのが現状です。教育者の数が絶対的に足りていないというのが日本の課題でもあります。裾野を広げるには、教育の場とそこで教えるスキルのある人を増やす必要があると思っています。

 

 継続教育の方も、正会員になってもなお勉強している人とそうでない人に分かれます。多分、後者の方が多いと思います。でも、これは当たり前で、会社での役職が上がり、家族を持って子供もできると、人生の中の優先順位は変わってきます。一方、前者の人がいるのも事実です。この前者の人を組織として受け止める器があまりないという課題もあります。アクチュアリー会の中に、幾つか研究好きなメンバーが集まって、研究したり、論文を書いたりする委員会もあります。そういった委員会活動が広がれば、継続教育の裾野も広がるかもしれません。

 

 

10.今後、アクチュアリーとして活躍することを目指す学生へひとこと

アクチュアリー知名度向上に向けて一緒に頑張りましょう!

 

 

【謝意】ご多用にも関わらず、本企画にご協力賜りましたこと、心より感謝申し上げます。