さえたん日記

アクチュアリーを目指す方々にお役立ちな情報を載せていきます!

アクチュアリー就活について【面接の質問集part②】

懇意にしていただいている24卒の方からアク就活の面接での質問リストをご提供いただきました!(*´▽`*)(ありがとうございます!)

 25卒の皆様は、就活も佳境を迎えていらっしゃるでしょうが、蔭ながら応援しております…!

 

 

 

【生保損保会社での面接質問一覧】

<ご自身に関する質問>

  • 強みを活かした経験
  • 弱みは何か? 自分の弱みへの対処法
  • 何を大切にして生きているのか
  • 人生で一番力を入れたことは何か、なぜそれをしようと思ったか
  • 人とコミュニケーションをしている時、大切にしていることは何か
  • 周りに反対されても貫き通した経験は何か
  • 最近何か頑張っているか
  • 他人を巻き込んだ経験について
  • 学生時代に失敗したことと、それをどう活かしたかについて
  • 周りにどんな人だとよく言われるか
  • 大学入学までに現在の価値観に影響を与えた出来事
  • 英語に抵抗はあるか

 

アクチュアリー・就活に関する質問>

 

<キャリアイメージの質問>

  • 入社して実現したいこと
  • 希望する部門でどういう仕事をしたいのか
  • 希望の部署に配属されなかった場合、どうするか
  • どのような上司になりたいか
  • どういう社会人になりたいか

 

【信託銀行・コンサルティング会社の面接質問一覧】

<大学生活>

  • なぜその大学を選んだのか、大学合格した時どう思ったか
  • コロナによってなにが影響を受けたか
  • 大学・大学院で何を学んでいるか、またどのようにしてモチベーションを高くキープしているか
  • 学業で力をいれたこと、学業以外で力を入れたこと
  • 学生時代、「集団で」何か頑張ったこと、またどのように取り組んだのか

 

<ご自身に関する質問>

  • 学生時代に1番力を入れていたこと、自分の強みがどう活かせたか

(どういった力の入れ方をしていたか、苦労したこと、良い体験等の説明)

  • 大学生活で一番頑張ったことは大学生活でどのくらいの割合を占めるか 
  • 自分の価値観はどういう経験をもとに得たものか
  • クレーマーがいた時にどういう対応をするか(ストレス耐性はあるか)
  • 大学入学前の一番印象深かった、価値観に影響を与えた出来事
  • 部活動は何をやったか
  • 特技趣味欄の深掘り(履歴書)
  • 友人からどのような人と言われることが多いか
  • 友人のグループで、どういう立ち位置になることが多いのか
  • 院に行く可能性はあるか(学部生の場合)
  • 貴方の原動力は何か
  • あなたが岸田総理の立場ならやるべきだと考える政策(2つか3つ)

 

アクチュアリーや就活に関する質問>

  • アクチュアリーを知ったきっかけ
  • アクチュアリー試験状況、今年の勉強計画
  • 生保損保年金の違いは理解できたか
  • 生保・損保・年金の志望順位とその理由
  • どんなアクチュアリーになりたいのか
  • 年金アクチュアリーの業務にどのようなイメージを持っているか
  • 他社・他業種でどのようなインターンに参加していたか、その感想 
  • 就職活動の軸、企業選びの軸
  • 他業界は受けるか(受けようとしている企業)、ESは出したか、出す予定か
  • 同業種競合他社の志望度
  • 社風はどう感じているか
  • 内々定を出したら就活やり切るか、やめるか。

 

<キャリアイメージの質問>

  • 当社に入社したとして、5、10年後にはどう活躍しているか
  • 当社に入社したら、自身の強みをどう活かせるか自己PR
  • (アクチュアリーに何を掛け算して、どんな挑戦をしていきたいかを言えたら良い)
  • 年金アクチュアリーに求められる能力は何だと思うか
  • 自分の想いや考えをどのように仕事に昇華したいか
  • データサイエンスは選択肢として考えなかったのか
  • 英語に対して抵抗があるか
  • 貴方にとって会社とは、専門性とはなにか、あなたが会社に求めるものは何か
  • 東京勤務(関西に本社がある場合は大阪勤務)は問題ないか

 

↓part①はこちらです

bluetan0210.hatenablog.com

 

年金アクチュアリーのキャリアの幅について

社内外で出会ってきた年金アクチュアリーの業務内容のご紹介、キャリアの幅、年金業界のホットトピック等をフラットに書いてみようと思います。

面接の話のネタになりそうなことも記載していますので、就活生の皆様も業界研究や将来のキャリアイメージ構築にご活用いただければ幸いです^^

 

■勤務先

信託会社、生保会社、損保会社、監査、コンサル(制度コンサルティング、人事コンサルティング)、証券会社、官公庁(厚生労働省金融庁国民年金基金連合会、企業年金連合会等)、GPIF、信託協会、出向関連会社(システム子会社等)、大学など研究機関(出向)

 

今までにお目にかかったことのある方々の勤務先を列挙しております。

 

■部署・業務 

 

上に挙げた中では、信託銀行では「監査」以外ならば、全ての業務が可能だったりします。

信託銀行の魅力は幅広い業務が可能な所でもあり、未経験分野への転職は往々にして年収などの待遇が下がってしまうのですが、同じ会社での部署異動であれば年収や職位、人脈はそのままに、興味のある業務にチャレンジできるのは大きなメリットだと考えております。

 

■業務内容

  • DB数理計算(年金信託部、団体保険)

年金アクチュアリー候補生が新人配属されるのは、ほぼ100%DB数理計算の部署です。

一次試験の年金数理にあるような決算や財政計算、PBO計算などを行います。保険会社での主計部署のようなイメージでしょうか。

色々な会社の退職給付制度を数理部署で触れておくと、お客さまに「他社ではこんな制度もありますよ」といった話の幅が広がりますし、数理部署でしか培えない基礎は沢山あるので、とても大事な業務ですね。

 

こちらで数理業務について触れています↓

bluetan0210.hatenablog.com

 

年金コンサルティングを志望される方は、お客様とは法令知識に基づいて制度設計の検討を重ねますので、二次試験にあるような年金法令の知識習得や年金制度そのものへの理解を深めておくことを強くオススメ致します。

 

 優秀なコンサルティングアクチュアリーは、えてして年金制度への深い造詣をお持ちで、数理的素養、コミュニケーション能力、全て備えていらっしゃいます。(能力値のレーダーチャートが満遍なく高いイメージでしょうか)

 退職給付制度は人事制度の枠組みの中にあるので、お客様の多くは人事部のご担当者様になります。退職給付会計の話になると経理部のご担当者様がご同席することもあります。

 人的資本経営、Financial Well-being、人生100年時代、定年延長がホットトピックですが、人事コンサルティングに強みのある信託銀行もありますし、人事コンサルティングを行う年金アクチュアリーもいらっしゃいます。

 

制度コンサルティングについてはこちらの記事で触れています↓

bluetan0210.hatenablog.com

 

  • データサイエンス

 現場では、人手不足を補うための業務効率化の一環として、DX、システム化推進、データサイエンスへの関心は非常に高いです。特に数理部署での年金数理計算・報告レポート作成はシステムやツールが用いられているので、これらとの親和性が高いのかもしれません。

 旬の人気分野だけに、正会員になられた後、年金数理人になられた後のキャリアとして選ばれる方が多いです。業務公募制度を利用して異動されるアクチュアリー出身者が多い印象があります。

 

 信託銀行にも実はリスク管理部署というものがあり、銀行のERMを行っています。こちらでも年金アクチュアリー出身者が多く活躍されています。数学科出身だと喜ばれたという話もあります。

 Twitterを拝見する限りだと、やはり生損保のアクチュアリーの皆様の方がリスク管理へのご関心が強い印象がございます。

 数理部署やコンサルティング部署ですと、リスク管理よりもむしろデータサイエンスや人的資本経営、令和6年度公的年金財政検証の方が関心が強く、信託会社ではリスクを直接的には負わないビジネスモデルが意識・考え方に影響してくるのかもしれません。(幹事先・運管先の倒産による収益減少など間接的なリスクはあるのかもしれません)

 

 「CERAを取得しても、社内での資格の知名度が非常に低いことや、お給料アップ等、目に見える形での待遇向上がないので、面白いけど、正直モチベが湧きにくい」「英語は苦手だから海外に出る予定はない」という先輩のご意見もあったり、リスク管理部署に異動する際にCERA資格が必須というわけではなく研究会員や準会員の方も異動された例もあり、もちろん会社による差異もあるのでしょうが、異動の希望が比較的通りやすいのかもしれません。

 

アクチュアリー会HPにて、信託銀行でリスク管理に携わっていらっしゃる方の記事がありましたのでご紹介します↓

https://www.actuaries.jp/actuary/message08.html

 

  • 年金営業

 数理部署・年金コンサルティング部署のアクチュアリーが最もお世話になるのが年金営業さんです。お客様との窓口は年金営業さんなので、往訪アポをセットしてくださったり、往訪には必ず年金営業さんが同行しますし、やはり対客経験ではフロントである年金営業さんが圧倒的なので、連係プレーで対客しています。

 研究会員・準会員持ちの年金営業さんは実は結構いらっしゃり、アクチュアリー試験はもう受験したくないけど対客業務はやりたいという方が多いです。

試験に合格するとその難しさを重々ご存じなので、真っ先に「おめでとう!」とお祝いしてくださりますし、試験の合格状況は関心が強いのでリアルタイムに把握していらっしゃいます。人望のあるアクチュアリーの準会員が晴れて正会員になると、「お祝いしますよ!」と祝賀会の飲み会をセットしてくださったりします。

正会員の年金営業部長もいらっしゃいます。

 年金営業さんはお客様との宴席・接待ゴルフも行いますし(年金アクチュアリーではそういった場は基本ございません)、年金運用提案、DC提案、制度設計の提案など年金業務を幅広にこなされるので、年金事業の要は年金営業なので営業成績・ノルマなどはあるものの、仕事は楽しそうな印象があります。

 私も年金営業さんとは接点が多く、今の部署の同僚は全員が年金営業出身者なので思うのですが、やはり明るくてコミュニケーションに長けた陽気な方々がとても多いです。会話のテンポが早く、話していて楽しいですね!

「僕、女性のアクチュアリーは初めてお会いしましたよ!」と見ず知らずの年金営業さんが、私の顔と名前を覚えていらっしゃり話しかけてくださったりします。

 

  • 年金運用(年金ALM)

資産サイドの提案を行うことも可能だったりします。こちらは後述致します。

期待リターン引上げで旬なテーマですね。

 

  • 事業企画

年金営業部、DC部署、年金アクチュアリーの多くが属するDB部署の全体を統括して、年金事業全体を俯瞰した事業計画策定、企画立案、事業のPDCAサイクルを回す仕事です。年金ビジネスの屋台骨は年金運用(資産サイド)なので、弊社では年金営業部出身者、年金運用部出身者が多いです。

 

  • 大学などの研究機関(出向)、官公庁

社内の業務公募制度を使って大学の研究畑に戻られる方や、信託銀行から官公庁に出向される方もいらっしゃいます。

 

■得意な人が少ないもの

  • 英語(特にスピーキング)
  • 年金運用など資産サイドのお話

 

「苦手意識がある」「全く分からない」という声が多いもの達です。(裏返せば、得意になると強みに出来るもの達ともいえます)

 

 英語(特にスピーキング)を苦手とする方は本当に多く、私の周囲ではTOEIC800点以上が数人しかいらっしゃらないという噂もございます…。

外資系企業のお客様だと英語でプレゼンすることもあるので、スピーキングが出来ると重宝されます。

 また、年金アクチュアリーは負債サイドの話を好まれますが、年金運用などの資産サイドのお話を得意とされる方はあまりいらっしゃらないです。

アクチュアリー知名度がほぼないらしい年金運用関連への異動事例は聞いたことがないので、年金ALMの経験がある方くらいでしょうか。

 資産サイド・負債サイドはかなり観点が異なるので、両方の観点を持ち合わせていれば提案や着想の幅も広がりますし、応用が利くのではないかなと考えております。

年金運用の話になると前のめりになるお客様がいらしたりと、お客様の関心が相応に強いので、年金営業さんは年金運用提案を行う機会の方が多いですし、お客様のニーズにお応えするためにも、いずれ遠くない将来、年金数理人がDB決算報告のみならず年金運用提案も行えるよう求められるのではないかとも個人的に想像しております。(現に年金ALMは年金アクチュアリーの分野ですし、運用提案が出来ると転職の幅も広がりそうです)

 年金営業さんや年金運用部のPM(ポートフォリオマネジャー)といった収益をアグレッシブに狙いにいく、いわば「戦闘民族」ではないため、お金稼ぎの感覚などはこの方々ほど強くない印象があります。

 

■年金業界のホットトピック、関心事

  • 令和6年度公的年金財政検証
  • DC法改正
  • 資産運用立国、期待リターン引上げ、年金運用
  • インフレに伴う給付の実質価値の低下
  • 人的資本経営、FWB
  • 定年延長、人生100年時代
  • データサイエンス(業務効率化、システム化推進)

就活生の皆様は逆質問をお考えになる際にご活用ください。

 

■性格(キャラクター)

これは個人差が大きいところでもあるので一概には申し上げられない部分もありますが、

 年次が上がる程、思考の癖や主張がはっきりされていて、議論も白熱しやすい傾向があります。業務以外だと、飄々として掴みどころがないあっさりした性格の方が多いような…お話好きなお方は社内外問わず一定割合でいらっしゃいます。

 一方で、若手は穏やかで人当たりが良く、やや内向的で保守的な優等生というイメージです。他部署の総合職と比較すると、意識や関心のベクトルが内向きな傾向は少なからずあると思います。

 年次問わず、能力的に何か一つに突出しているというよりは、オールマイティなタイプが多いように思います。

 

 逆に、珍しいタイプを挙げると、内輪のコミュニティから飛び出して、外部との接点をどんどん持ちに行くような好奇心旺盛で行動力溢れるタイプというのは珍しいです。

 他には、尖っていらっしゃるタイプも珍しいです。

穏やかな方が多いイメージがおありかもしれませんが、私が個人的に尊敬する年金アクチュアリーの先輩方は、例外なく、負けん気が大変お強い方々です。

その個性や負けん気が高い向上心やプロ意識に繋がっていらっしゃるのだと拝察します。

 

■ご趣味

私の周囲では、野球ファンが圧倒的に多いです!

巨人と阪神タイガースが人気を二分しており、次いでホークス、広島カープ、西武という順番でしょうか。それ故か、業務でも「三遊間」「大谷君」などの野球用語が手引書や社内メールにもよく登場します。

他に聞き及ぶ範囲では、筋トレ、サッカー、マラソン、車・バイク、旅行、お笑い鑑賞、地酒巡り、建設現場巡り、ツール開発…etcです。

 

年金数理の裏側にあるもの

このブログは学生の方に見て頂いていることが多いようなので、ぜひ業界研究に役立てて頂きたいと思い、2年半の実務経験を通じて思うことを綴ってみます^^

 

 例えば、従業員が定年退職を迎えるたびに一人あたり2,000~3,000万円もの大金を一時に準備するのは会社サイドとしても厳しいですよね…汗

そこで入社から定年退職までの約40年間にわたって掛金をコツコツ積み立てて準備する仕組みを構築するとともに、さらに掛金や積み立てられた年金資産に対して損金算入という税制優遇を行うことにより、会社サイドからみても企業年金制度を実施するメリットを設けました。

 

 年金数理の受験生の皆様が一生懸命勉強しておられるのは、この年金財政をどのように運営していくのか? つまり毎年度どれくらいの年金資産があって、責任準備金があって、今後も制度を半永久的に継続していくにはどれくらいの掛金を積み立てる必要があるのか? そして、昨年度の数値と比較して、それぞれどんな要因で増減しているのか?を、正確な数字を通じてチェック&把握するために登場するのが、脱退差・利差・昇給差といった利源分析になります。さしずめ年金財政の定期健康診断の検査項目のようなものでしょうか。

 細かい基礎率の変動が数理債務の額などに大きく影響することも多々あり、実務未経験の方からすると「たかが0.5%」と思われるかもしれない変更が、億単位・百億単位の違いを生むこともございます。

 

 企業年金制度は1962年に日本初の適格退職年金が導入されてから60年もの間、適格退職年金・厚生年金基金の発展と衰退、DBとDCの導入、そしてリスク分担型企業年金の誕生と、時代の流れとともにその在り方を変えてきました。

 この半世紀を振り返ってみても、石油ショック・バブル発生と崩壊、湾岸戦争アジア通貨危機リーマンショック東日本大震災、新型コロナウィルスの蔓延、ウクライナ侵攻といった経済情勢の変動があり、そのスパンは徐々に短くなっております。

 年金数理に登場する「年金資産」は、何万人もの従業員様の老後の生活資金となる大事なお金です。年金数理で皆様が苦戦しながら勉強する内容、年金財政の運営状況を正確な数値を通じて把握し、運営状況が悪化した場合にはお客様に寄り添って積立計画を一緒に見直すことは、新入社員が定年を迎える40年後まで、それまでに起こりうる経済情勢の変動から、この大事なお金を守るために不可欠な業務であり、ひいては老後の資金インフラを守ることに他なりません。

 企業年金は今後数十年間にわたってどのような様相を呈するのでしょうか。DBやDCではない別のカタチになっているのかもしれません。

 及びもつかぬ40年後までお客様の大事な老後資金を守るため、DBやDCの先にあるものに対しても、年金アクチュアリーは柔軟に対応していくのだと思います。

 

 未曾有の大恐慌が発生して企業の倒産が相次いだとしても、年金資産が外部積立によって守られたことによって従業員の退職金は守られる。ここに企業年金の存在意義があるのだとも思います。

 退職給付制度の変更は、重要な人事制度の変更であるため、経営トップマターとなります。年金アクチュアリーのお客さまは、その会社を50年後100年後にわたって存続させる責務を負った経営層になります。こういった方々とも議論を交わすには、目線のレイヤーを同じ高さまで合わせる必要がございます。そして、年金アクチュアリーが提案した制度設計はその会社に数十年以上の長きにわたって残り続け、何万人もの従業員様の老後生活の資金インフラになっていくのです。

 

どうでしょう。非常に奥が深い仕事と思えましたでしょうか?

 

 年金アクチュアリーを目指す学生の方は、そういった方々に対して、自分は一体何を話せるようになるべきかというのを今のうちからお考えになられるとよろしいかもしれませんね^^

 

法令に強い年金アクチュアリー

ご無沙汰しております。

 

 DB数理計算の実務や年金コンサルティングの制度設計にあたり、法令の知識も必要不可欠なスキルであることを記事にしてみようと思います。

 さて、以前のブログ記事https://bluetan0210.hatenablog.com/entry/2023/02/11/225528

でこのような文章を書きました。こちらのモデルになったとある先輩について、ピックアップしようと思います。

個人的に、当社の中で「専門家」という言葉に最も相応しい年金アクチュアリーとして尊敬する方です。

 

~(抜粋)~~

部署の先輩方を拝見していて感じるのは、年金アクチュアリーが「専門家としての合理的な判断」を行うための土台は、関連法令の知識だということです。

お客様や営業さんからの照会対応にあたり、年金二次で問われる知識はもちろんのこと、人事・労務、税制の知識、その他諸々の知識が必要になってきます。

法令やDB規約、DC規約、退職金規程を読み解く読解力をベースに、お客様・営業さん・社内の関連部署、地方厚生局等の全てのステークホルダーがご納得いただけるようなロジックを組み立てていく力、といったところでしょうか。

公的機関との折衝業務はかなり難度が高いので、こういった仕事を任されるのは年金アクチュアリーの中でもかなり頭の切れる方がご担当されるイメージです

 (中略)

 これは、得手不得手がはっきりしやすい能力のようで、頭が良すぎて却って標準レベルの相手に説明レベルをチューニングするのが難しい…といった方もいれば、頭が抜群に良く、その体系化された膨大な知識をどんな相手に対しても教えるのが抜群に得意な方もいらっしゃいます

~~~

 年金アクチュアリーがいる世界は、極めて白黒がはっきりした世界だと感じます。

例えば、DB数理計算を行う部署では、予定利率・予定脱退率といった基礎率の定め方、責任準備金の算定方法、最低積立基準額の算定方法、標準掛金・特別掛金・特例掛金の算定方法など、あらゆることが法令で明確に定められ、そのルールに則って、財政決算・財政計算・PBO計算などの算定業務を行います。それは、お客さまにご提供する数値は会社決算に用いられるため、そこにアバウトさ・恣意性があってはならないためです。

 年金コンサルティングでも同じことで、制度設計・提案を行うにあたり、その制度設計が可能か不可能かどうかグレーな照会に対して、法令に基づき専門家としての合理的な判断に基づき、そのグレーに白黒のジャッジを下すことも仕事の1つなのだと考えております。

 退職給付制度には企業の数だけ数多の事例があり、その膨大な事例を体系化させ、企業年金制度だけではなく、税制・人事制度・労働基準法その周辺分野の知識の観点を踏まえて、合理的な判断を行います。

例えば、選択型DCの導入にあたり、○○企業年金基金では○○の設計で行政の認可が下りたことがあった。この事例を踏まえて、☆☆企業年金基金の選択型DCの導入認可を行政宛交渉しよう、のようなイメージでしょうか。

 

 しかしながら、行政も1つの事例を認めるとなし崩し的に他の事例も認めなければならないため、認可には慎重な姿勢を取ることが多いです。

解釈の幅を活かして、お客様や営業さんが望む制度設計の認可をもぎ取りにいく折衝は、膨大な知識のみならず交渉の場における機転、頭の切れ、度胸が求められるとのことです。

 

 このモデルになった先輩は、その頭の切れと体系化された膨大な知識を以てして、正会員の間でも「専門家」「ブレーン」として一目置かれており、「この制度設計は判断しかねるから○○に整理してもらおう」といったように「当社判断≒その先輩のご判断」といっても過言でないほど絶大な信頼を置かれています!(少なくともこの方が、切れ者揃いのベテラン正会員の舌戦で論破されてるのを見たことはないです)

 

DBやDCには厳格な法令規制があり、制度設計を行うにしても、数理的素養だけではなく、この法令に通じている必要があります。そして制度設計の可能性を広げる役割をこういった先輩方が担っておられることをお伝え出来たのであれば幸いです。

 

 

年金アクチュアリーに必要なスキル②(説明力・応用力・多角的な分析力)

 前回記事に続き、説明力、多角的な分析力、応用力について解説いたします。

数理計算を行う上でも、制度コンサルティングを行う上でも、これらの能力はとても重要なスキルだと感じております。

 

年金アクチュアリーの説明力には、

①年金数理人として計算結果をお客様や営業さんに説明する力

②制度提案に際して、お客様に訴求していく力

の2種類に分類できるかと存じます。

 

①年金数理人として計算結果をお客様や営業さんに説明する力

こちらは、いっちー様のブログで詳しくご解説頂いている通りです。

アクチュアリーに必要なコミュニケーション能力とは? : いっちーのアクチュアリーノート

年金アクチュアリーに必要な説明能力【具体例1】 : いっちーのアクチュアリーノート

 

②制度提案の際、提案の内容とそのメリット・デメリットを説明した上で、お客様に訴求していく力

 

 個人的には、お客様に「ご理解」いただくことと、「ご納得」いただくことには大きな差があると考えております。

 

例えば。

給付減額といった不利益変更となりうる制度変更に対して、制度変更の内容やロジックを「理解」はできるが、「納得」はできない方もいらっしゃるかもしれません。

そこで先方の担当者様はこう仰ります。

「どのような説明なら従業員が納得してくれるのか、一緒に考えて欲しい」と。

 

 それに対して、年金アクチュアリーは、数字の力や法令の知識、業務経験によって培われたノウハウを駆使して、どういった方策が考えられるのかを一緒に考えていくことになります。

 

 法令上の建付けや、コスト面での制約といったあらゆる制約の中で、やはり全てのステークホルダーがご満足いただくような制度設計が必ずしも可能という訳ではなく、あちらが立てばこちらが立たずといった状況に陥ってしまうこともあります。(むしろそういった難しい案件だからこそ年金アクチュアリーにヘルプが飛んでくるのだと思います)

 なればこそ、その両方を立たせる第3の案を生み出すことが、年金アクチュアリーの役目なのだと考えております。

 

 

まずは、

・お客様のニーズ把握、現状の課題分析

・他社比較でお客様の会社の給付水準等はどうなのか?

・お客様のご要望にお応えできること・できないことは何なのか

・お客様のDB・DC・退職給付会計の知識レベル

・お客様と弊社の関係性

ステークホルダーのDB・DCについてのお考え

・お客様の会社の労使の力関係

 

 様々な点を考慮し、お客様の反応を見ながら、説明の仕方も柔軟に変えていく必要があります。その上で、以下のような観点から制度設計を考えていくことになります。(以下に挙げた事項は序の口ではあるのですが…)

 

・法令の建付け上問題ないかどうか

・従業員様にとって制度変更するメリットは何なのか(制度変更によるデメリットをカバーし得るだけのメリットは何なのか)

・制度変更による財政、会計インパクトはどの程度になってくるのか

・既存従業員への経過措置(制度変更時点の加入者ごとの給付水準に差異が生じる場合の過去分補填等)

・制度変更後、数十年間スパンでみた影響としてどんなものが考えられるのか

・今までの実務経験からどんなことが予測されるのか?

・既存DBDC退職一時金制度への影響の有無・その影響の程度

・業界の中で影響力の強い会社やグループの親会社であれば、他企業への影響

 

 以上を検討するための多角的な分析力は実務経験によって培われる部分が大きい故か、私の部署はベテランの方ほど柔軟な思考を持った方が多いように感じております。

メジャーなのは、定年延長、DC移行(退職一時金原資かDB原資かによっても変わってきます)、ポイント制移行、ジョブ型導入といったところでしょうか。それぞれセオリーはあるものの、どの会社にも必ず通用するわけではないのがまた難しいところで…。

会社の給付設計によってはこのセオリーが通用しないことも多々あり、ステークホルダーのお考え一つで白紙になったり…。

 

 この世にあまねく存在する会社の数だけ、退職給付制度のカタチがあって、その裏には退職給付制度創設時のお客様の理念・ポリシーや、当時の法令による制約や、お客様の会社独自の事情があり、

それら全てをケースバイケースで考えて、今までの事例から応用できること、最善の提案は何なのか。次善の提案は何なのか。

 先述したように、全ての会社に必ず応用が利く万能薬というものは無いからこそ、数理的素養や法令の力、今まで培ったノウハウを総動員した上で、お客様にとっての最善を私達は追求しつづけているのかもしれません。

 

 学生の時は、年金アクチュアリー≒DBという認識でおりましたが、お客様や営業さんから「私的年金の専門家」として求められる立場となって思うのは、DBのみならずDC制度設計や退職給付会計に関する知識も併せ持っていなければ、これらには対応できないということですね…。数字の力を武器とするからこそ、アクチュアリーだからこそ数字に呑み込まれてはいけない、数字の裏側にあるものを忘れてはいけないと肝に銘じつつ、まだまだ未熟な身ゆえ、更なる研鑽を積まねばと痛感する今日この頃です。

 難しいテーマだけにとりとめのない乱文雑文となってしまいましたが、企業年金の奥深さを感じて頂けましたら幸甚です。

年金アクチュアリーに必要なスキル①

ご無沙汰しております。

よく学生の方から「どんな方が活躍されていらっしゃるんですか?」というご質問を頂きますので、社会人となり、多くの年金アクチュアリーの先輩方を拝見していて感じたことをまとめてみようと思います。

 

重要だと思う順番から列挙してみます。

 

  • 数理的素養
  • 関連法令の知識
  • 説明力
  • 多角的な分析力
  • 応用力
  • 勉強を継続する力
  • コミュニケーション能力

 

<その他あると便利な能力>

ツールスキル、退職給付会計の知識、英語力、人事労務に関する知識、営業力、行動力etc

 

財政決算、財政計算、PBO計算等の数理計算を行う数理部署と、制度提案を行うコンサルティング部署とで、業務内容や求められるスキル、レベル、所属メンバーの気質が異なるので、また別記事にて紹介いたします。

 

コミュニケーション能力が意外と低い順番であることに驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、それ以外の6つのスキルがそれほどに重要と考えております。

 

  • 数理的素養

年金営業さんと年金アクチュアリーの主たる違いというのは、数理的素養と関連法令の知識の有無だと考えております。

(ちなみに最近は理系出身の年金営業さんも増えてきています)

 

たとえば。

計算ツールで算出された結果に対して、

「勤務費用は何故この水準になったのか?」

「脱退差がこの水準になった理由は何なのか?」

「予定利率引上げに係る財政計算において、この数理債務の額、掛金の額は妥当な水準か?」

「このDC設計によって既存のDBに与える影響はどのようなものが考えられるか?」

といった観点で数字の検証、何故この数値になったのかその裏付けを考える能力が大事になってきます。(予定利率1%引き上げたら、数理債務の額や標準掛金額はこの程度変動するだろう…定年延長を行ったら給付減額回避のために年金額はこれくらい引き上げるだろう…といった定量的に把握する力ですね)

その会社独自の給付設計や業種、加入者・受給者の給付水準、退職給付見込額の期間帰属方法、これまでの財政計算の履歴等、様々な観点から専門家としての合理的な判断に基づいて、その計算結果の妥当性を判断します。

間違った計算、数字に対して「これはおかしい」と気付ける感応度の高さが、計算ミスを防ぐうえで最も重要になってくるので、数字に強いことはとても重要なスキルです。

 

 また、PBO計算(退職給付債務計算)では、お客様から加入者・受給者データをご作成頂いて、そのデータ検証を行ったりするため、特にデータ処理に強い方は楽しめるのではないかと存じます。(個人的にこのPBO計算は一番面白いと感じております^^)

 

  • 関連法令の知識

 部署の先輩方を拝見していて感じるのは、年金アクチュアリーが「専門家としての合理的な判断」を行うための土台は、関連法令の知識だということです。

お客様や営業さんからの照会対応にあたり、年金二次で問われる知識はもちろんのこと、人事・労務、税制の知識、その他諸々の知識が必要になってきます。

法令やDB規約、DC規約、退職金規程を読み解く読解力をベースに、お客様・営業さん・社内の関連部署、地方厚生局等の全てのステークホルダーがご納得いただけるようなロジックを組み立てていく力、といったところでしょうか。

公的機関との折衝業務はかなり難度が高いので、こういった仕事を任されるのは年金アクチュアリーの中でもかなり頭の切れる方がご担当されるイメージです。

 

 

  • 説明力

 これは、得手不得手がはっきりしやすい能力のようで、頭が良すぎて却って標準レベルの相手に説明レベルをチューニングするのが難しい…といった方もいれば、頭が抜群に良く、その体系化された膨大な知識をどんな相手に対しても教えるのが抜群に得意な方もいらっしゃいます。

こちらも別途記事でご説明いたします。

 

  • 多角的な分析力

  • 応用力

こちらに関しては別途記事でご説明致します。

数理部署でも、コンサルティング部署でも必要になってくる重要なスキルだと考えています。

 

  • 勉強を継続する力

正会員になるまで、そして正会員になった後も必要になってくるスキルですね…。

正会員になった後も、毎年法令改正があるのでキャッチアップのための勉強は必須となってきます。(直近の法令改正の内容は、頻繁にお客様や営業さんから説明を求められるため)

年金分野に限らず、証券アナリストや社労士、中小企業診断士、英語等を勉強されている方もいらっしゃいます。

 

  • コミュニケーション能力

 意外に思われるかもしれませんが、大半の年金アクチュアリーの所属する数理部署は社内ではバックオフィスという扱いです。決算報告シーズンでない時期は、数理部署の方々は内勤が多い印象です。

コンサルティング部署でもミドルオフィスという扱いで、お客様との打ち合わせは週2~3日程度です。

 

 ですがやはり、お客様や営業さんと良好なリレーションを構築できるような年金アクチュアリーが活躍しやすいのはいわずもがな、営業さんから内々に裏情報の提供があったり、営業さんのパイプを生かしてお客様を紹介いただいたりと何かと融通して頂きやすいですし、お客様からお気に召していただけると口コミで指名が入るといったこともあるようです。

特にコンサルティング部署では、営業経験のある正会員の方もご活躍されています。

 

 以上がビジネス面でのコミュニケーション力の話で、次はパーソナリティ面でのコミュニケーション力についてご説明します。

周囲の年金アクチュアリーの方々の外見や雰囲気、コミュニケーションはリテール等の他の総合職の方々とほぼ同じ印象で、紛れていても恐らく見分けがつかないかもしれません。

 あえて対客業務のある仕事を選択なさるからなのか、お話好きな方も一定割合(1~2割程度?)いらっしゃる印象です。よくふらふらデスクを周回して雑談している方(お仕事が凄く出来る方です)や、トーク力がすこぶる高い方を観察していると、元来コミュニケーション力も高いのかもしれませんが、性格的にコミュニケーション自体がとてもお好きなのかもしれません。

 あと勉学1本!という方はほぼいらっしゃらず、趣味関心の幅が広く、どちらかというと文武両道タイプが多い印象です。(私の周囲だとスポーツ経験者が多いです)

インタビュー企画第5弾!【MBA留学されているアクチュアリーってどんな人?】

 ―超難関資格。高学歴。アクチュアリーとは、一体どんな人なのか?―

さて、ありがたいことに、皆様のご好評賜りまして、インタビュー企画も第5弾となりました!

 

今回は、正会員(損保)になられたのち、MBA留学をされているアクチュアリーの方にインタビューしました!!

 

 

今、ご関心を持たれているトピック

データサイエンスはMBA学生の中でもホットイシューであり、選択授業ではパイソンや機械学習の授業もあります。アクチュアリーとしてではなく、社会人の教養として身に着けたく少しずつ勉強をしています。

 

米国のレモネード社が代表例かもしれませんが、組み込み型保険・シームレスな顧客体験は今後さらに注目を集めると考えています。

 

  • 国保険市場と日米保険市場の違い

現在イギリスに住んでいるので、せっかくならと思いイギリスの保険資格(ACII)の勉強を通して学んでいます。

 

日本で今後新しい保険ビジネスに挑戦するとしたら、金融庁サンドボックス制度や少額短期保険が現実的だと思いまして、その動向が気になっています。

 

  • 資本規制のゆくえ

すべてはソルベンにつながっている、というのが私の持論で、今後数年間はグループ保険数理機能・ICS・国内経済価値ソルベン・IFRSとソルベンをめぐる諸問題が目白押しです。

 

国内において、どのような業務をされていたのですか?

 私の行ってきたアクチュアリー業務は、法定ソルベン(国が定めるもので、定めないで各社独自に求めているものを内部ソルベン・ESRとよく言います)、保険計理人補佐(商品開発の相談が来た際の支援・けん制、法律で定められている確認業務という責任準備金や支払備金のチェック)、G-SIIs(に該当するか判定するために子会社からデータ収集)、ICS、コムフレーム(グループ保険数理機能の構築)、経済価値支払備金算出(BS上の支払備金とは別に、内部管理やICSに使用)です。

 

 

海外アクチュアリーの方々と一緒にお仕事をされた経験の上で、日本のアクチュアリーについてお感じになられたこととは?

  上司が海外アクチュアリーだった他、コムフレーム・ICS対応のため海外子会社のチーフアクチュアリーや担当者と仕事をしてきました。また、アジア子会社が主催する合宿研修やア会の海外研修でも海外アクチュアリーとの対話の機会がありました。

  こうした経験を踏まえ日本のアクチュアリーについて感じた課題は3つあります。

 一つ目は会話力に対する自信のなさです。外国人との会話に気後れしてしまい積極的な発言ができない、発言しても英語力が拙く上手く相手とコミュニケーションがとれないといったことです。日本は幸いなことに日本語のみで生活・業務が成り立つので仕方がないことなのですが…。

 二つ目は技術力の低さです。日本の損保の場合、リテール分野は参考純率の影響が大きく、各社アクチュアリーによる裁量が限られています。また、支払備金算出も法律で長い間ルールがしばられており、技術進歩が促されず、また、経営の関与も薄くなってしまいました。さらに、日本のアクチュアリー試験はプログラミングが課されていないためか、相対的にプログラミングが弱いです。加えて、日系企業では異動が自身の目指すキャリアアップに必ずしもつながらず、転職をし、同じ分野で技術を磨き続ける海外アクチュアリーと比べ専門性特化がやや低くなります。なお、少子高齢化というマーケットは他国になくそれに関する知見やリスク管理といった業務、生保年金では事情は異なるかもしれません。

 三つ目は視野の狭さです。そもそも日本のアクチュアリーは女性が極端に少なく男性社会化してしまっているという課題があります。また、個人レベルだと、海外アクチュアリーは自身のキャリアプランの中に自国にとどまらず色々な国で仕事をするという選択肢を持っている人が多いです(IFoA・SOA・CASの正会員の場合、英米に限らず他の国でも法定業務ができるという背景に起因しているのかもしれません)。日本の場合、東京や大阪ありきの方が多いように感じます。私は、海外アクチュアリーから、”What are you proud of being Japanese actuary?”と聞かれ、これまで世界の中での日本の立ち位置を意識したことがなかったため非常に驚かされました

 

海外アクチュアリーとの接点が多かったことで、ご自身にどのような影響がおありだったのでしょうか?

  元々損保業界を志望した理由が、日本だけなく世界中の人に広く貢献できるためだったので、自分自身が世界中で活躍できる人材となるべく、先の三つの課題をまずは個人として克服したいと考えるようになりました

 具体的には、経営全体をグローバルな視点で俯瞰できるようになること、および、アクチュアリー技能を一つの軸として海外の人と対等に経営論議ができるようになることを目指すようになりましたこれが海外MBA留学を志願した理由です。さらにいうと、海外子会社のアクチュアリーは会社規模の小ささから色々な仕事を任されていることが多く、会社経営全般に関する知識・経験が非常に高レベルであると感じ、彼らと対等に議論するには自身もハイレベルな視野が必要だと思ったことも一因です。個人として一定克服出来たら、次は周りの人を巻き込んで、日本全体のプレゼンスアップを目指していきたいと考えています

 

 

日本アクチュアリーの国内での地位向上のために、ひいては、国際的な地位向上のために、できることとは?

 国内の地位の観点では、アクチュアリーは自身の価値を発揮しきれておらず、また、アピールもうまくないので、会社・社会からの知名度が低いのだと考えています。例えばCOVID-19で海外のアクチュアリー会は独自の調査レポートを発行し社会に貢献をしていましたが、日本では何故かそのような動きはありませんでした。社会に与えるインパクトが大きくなれば、自然と国内での知名度・地位は上がると思います

  国際的な地位の観点では、英語が苦手な日本人アクチュアリーが多すぎるのと、国内マーケットの特殊性から、米国や英国など諸外国のアクチュアリーと同じ土台で対話をすることができないので、海外の中でのプレゼンスは低いのかなと思っています。現状、日本だと英語での対応ができるだけで褒められることが多いですが、世界で言えば英語で対応できるのは当たり前であり強みでもなんでもありません。試験が日本語であること、金融庁が日本語書類しか認めていないことが原因で、今後ますます諸外国との差は広がってしまうのではないかと危機感を覚えています

 また、IAAの定める新シラバスへの対応が日本アクチュアリー会は遅れていることは致命的かもしれません。ただ、IAAやASTINにて、個人として世界で活躍されている方々はいらっしゃいますので、そう悲観することもないのかなとも思います。

 

 

アクチュアリーとしての専門性を軸に、今後どのような業務にチャレンジされるご予定でしょうか?

  MBAで学んだ知見を活かし、ポートフォリオ管理や戦略立案といった会社経営または保険会社のM&A・事業投資業務にチャレンジしたいと考えています。これらの業務は保険数理と密接に関係していますが、必ずしもアクチュアリーが関与しているとは限らないので、そこに付加価値を与えられると考えています。また、最近は起業にも興味が出てきているので新しい保険ビジネスや関連ビジネスを企画できないかと考えをめぐらせています。 

 

 

MBA留学でのご経験を通して得られた知見、お感じになられたこととは?

  留学して7か月ですが、毎日新しい発見があります。自分に何ができて何ができないか、経営管理全般に関する知識だけでなく、他国の文化・考え方についても驚かされる毎日で、非常に楽しいです。私の通っているビジネススクールには、未来の経営者、例えば、既に経営者だったり、立ち上げを行いバイアウトまで果たしている人もいますし、世の中を引っ張っていくであろう同級生ばかりで、その考え方・ふるまいは非常に刺激になります。総じて同級生はリスクテイカーであり、私自身ももっとリスクをとって新しいことにチャレンジしていかなければと思う日々です。アクチュアリーはリスク分析のプロですが、あまりリスクを取りにいかない傾向があるので、もっと積極的に取りにいくべきなのかもしれません

 

 

アクチュアリーMBA留学をするメリットとは?

  保険ビジネスは他のビジネスと比べかなり特異な業界なため、MBAで学ぶ内容がダイレクトに適用できる部分が多いわけではないかもしれません。また、MBAで習う確率統計・財務会計・経済・ファイナンスは、アクチュアリーであれば既に既習の事項であり、新しい学びもそこまで多くないかもしれません。ただ、逆に言うとアクチュアリーは非常に経営管理に近い職業であると言えます。MBAで学ぶ内容は世界の経営人材の共通言語なため、経営人材を目指す人には最適な場所だと思いますアクチュアリーはとかくアクチュアリー村にとどまりがちですが、MBAに来ればノンアクチュアリーの視点も学べ、また世界のビジネスがどのように動いているのかも知ることができます。海外の成功例を日本に輸入するという考え方もあると思います。MBAは座学だけでなくネットワーキングやsocialの場でもあるので、そうしたソフトスキルを磨くこともできるのはメリットではないでしょうか。加えて、MBAはキャリアチェンジにも有効と言われているので、キャリアチェンジを目指す人にも最適です。

 以上は海外MBAの話であり、国内MBAは多少異なります。国内MBAは世界ランキングでは箸にも棒にも引っ掛かりませんが、そもそも海外MBAとは得られるものも異なるので、世界ランキングだけを鵜呑みにするのではなく、自身のキャリアや私生活を鑑みてどちらの方が自身にメリットがあるのかよく考える必要があると思います。MBAに行かずにそのまま会社の経営管理に携われるチャンスがあるならそちらを優先した方がいいという考え方もありますので、MBAは単なる選択肢の一つして捉えるべきかもしれません。なお、現在海外MBAに留学中の日本人アクチュアリーは私の知る限り5人はいますし、調べてみると海外MBAを卒業しているアクチュアリーは意外にみつかるので、そこまで特異なキャリアではないと考えています。

 

 

今後、海外での経験を持つ日本人アクチュアリーが増えていったとして、日本のアクチュアリー界にどういった影響があるでしょうか?

  各社海外展開を通して人材は増えていると思いますが、前述の課題があるため今後も劇的には増えないでしょうし、あまり大きな影響はないように思います。ただ、そうした人材が自分の周りの人を巻き込んで、あるいは社内で地位のある立場やアクチュアリー会の重職を務めるようになれば、一気に旧態依然とした風土・地位を吹き飛ばせると思います。海外経験のある人材が国内にいれば、外国人も多少は日本の会社で働きやすくなるので、海外アクチュアリーも普通に日本の会社で働いている状況が理想ですね。そうなるとアクチュアリー同士の競争が加速され、より質(付加価値)は上がっていくのではないでしょうか。

 

 

アクチュアリーが、より経営に関わってくることによる今後の影響はどのようなものがあるでしょうか?

  漠然としていますが、アクチュアリーとしての知見を活かしこれまでの経営陣にはなかった付加価値を生み出せるようになると信じています。社会に対する貢献も高まれば、自然とアクチュアリー知名度も上がっていくことになると思います。ただし、そもそもマネジメントが得意あるいはマネジメントに興味があるアクチュアリーは少数派だと思うので、その点注意をしないといけないと思います。専門職業人に求められる技能と(シニア)マネージャーに求められる技能は別物なので、個人としてはその違いを注意し、組織としてはそのような人材を戦略的に育てていかないといけません。これに伴い、アクチュアリー人材育成の在り方も影響を受けてくると思います。

 

 

海外で活躍するアクチュアリーを目指す人にひとこと

  私の場合は海外での実務経験がないので、あくまで海外で暮らしている人間としてのコメントです。目指されている方は何故海外を目指すのかということを明確にすべきかと思います。そこに明確な理由・野望があれば、周りの人も協力は惜しまないでしょうし、やってやれないことはありません。また、世界では自身の専門性は何か、自分に何ができるのか、who you areが問われます。自分はこれだけは負けない!という専門性を磨いておくことをお勧めします。私が本格的にアクチュアリーを目指したのも、(アクチュアリーとは関係ない)会社の海外研修に行った際に、「おまえの専門分野は何だ?」と聞かれ答えに窮したためです。とりあえず試験には合格し無事アクチュアリーを名乗れるようになりましたが、私は実務経験が短くペーパーアクチュアリーでしかないので、今後もみなさんと切磋琢磨していければなと思います。

 

経営により深くコミットするアクチュアリーを目指す人にひとこと

  最近教授に以下を問われました。” Where do you see yourself in ten years’ time? Don’t think in terms of your job. Your career isn’t what you do, but who you are (Advisor? Investor? Professor?). You’ll get to the top. What then?”

  私自身もまだ明確な答えが出せていませんが、どのように社会に貢献・恩返ししていきたいか、ということを考えることが大切だと思います。月並みですが一人ではできないこともみんなで協力すればより大きなことを成し遂げられるようになるので、みなさんと一緒に世界をより良い方向に持っていけたらなと思います。

 

 

【謝意】ご多用にも関わらず、本企画にご協力賜りまして、心よりお礼申し上げます。