さえたん日記

アクチュアリーを目指す方々にお役立ちな情報を載せていきます!

インタビュー企画第5弾!【MBA留学されているアクチュアリーってどんな人?】

 ―超難関資格。高学歴。アクチュアリーとは、一体どんな人なのか?―

さて、ありがたいことに、皆様のご好評賜りまして、インタビュー企画も第5弾となりました!

 

今回は、正会員(損保)になられたのち、MBA留学をされているアクチュアリーの方にインタビューしました!!

 

 

今、ご関心を持たれているトピック

データサイエンスはMBA学生の中でもホットイシューであり、選択授業ではパイソンや機械学習の授業もあります。アクチュアリーとしてではなく、社会人の教養として身に着けたく少しずつ勉強をしています。

 

米国のレモネード社が代表例かもしれませんが、組み込み型保険・シームレスな顧客体験は今後さらに注目を集めると考えています。

 

  • 国保険市場と日米保険市場の違い

現在イギリスに住んでいるので、せっかくならと思いイギリスの保険資格(ACII)の勉強を通して学んでいます。

 

日本で今後新しい保険ビジネスに挑戦するとしたら、金融庁サンドボックス制度や少額短期保険が現実的だと思いまして、その動向が気になっています。

 

  • 資本規制のゆくえ

すべてはソルベンにつながっている、というのが私の持論で、今後数年間はグループ保険数理機能・ICS・国内経済価値ソルベン・IFRSとソルベンをめぐる諸問題が目白押しです。

 

国内において、どのような業務をされていたのですか?

 私の行ってきたアクチュアリー業務は、法定ソルベン(国が定めるもので、定めないで各社独自に求めているものを内部ソルベン・ESRとよく言います)、保険計理人補佐(商品開発の相談が来た際の支援・けん制、法律で定められている確認業務という責任準備金や支払備金のチェック)、G-SIIs(に該当するか判定するために子会社からデータ収集)、ICS、コムフレーム(グループ保険数理機能の構築)、経済価値支払備金算出(BS上の支払備金とは別に、内部管理やICSに使用)です。

 

 

海外アクチュアリーの方々と一緒にお仕事をされた経験の上で、日本のアクチュアリーについてお感じになられたこととは?

  上司が海外アクチュアリーだった他、コムフレーム・ICS対応のため海外子会社のチーフアクチュアリーや担当者と仕事をしてきました。また、アジア子会社が主催する合宿研修やア会の海外研修でも海外アクチュアリーとの対話の機会がありました。

  こうした経験を踏まえ日本のアクチュアリーについて感じた課題は3つあります。

 一つ目は会話力に対する自信のなさです。外国人との会話に気後れしてしまい積極的な発言ができない、発言しても英語力が拙く上手く相手とコミュニケーションがとれないといったことです。日本は幸いなことに日本語のみで生活・業務が成り立つので仕方がないことなのですが…。

 二つ目は技術力の低さです。日本の損保の場合、リテール分野は参考純率の影響が大きく、各社アクチュアリーによる裁量が限られています。また、支払備金算出も法律で長い間ルールがしばられており、技術進歩が促されず、また、経営の関与も薄くなってしまいました。さらに、日本のアクチュアリー試験はプログラミングが課されていないためか、相対的にプログラミングが弱いです。加えて、日系企業では異動が自身の目指すキャリアアップに必ずしもつながらず、転職をし、同じ分野で技術を磨き続ける海外アクチュアリーと比べ専門性特化がやや低くなります。なお、少子高齢化というマーケットは他国になくそれに関する知見やリスク管理といった業務、生保年金では事情は異なるかもしれません。

 三つ目は視野の狭さです。そもそも日本のアクチュアリーは女性が極端に少なく男性社会化してしまっているという課題があります。また、個人レベルだと、海外アクチュアリーは自身のキャリアプランの中に自国にとどまらず色々な国で仕事をするという選択肢を持っている人が多いです(IFoA・SOA・CASの正会員の場合、英米に限らず他の国でも法定業務ができるという背景に起因しているのかもしれません)。日本の場合、東京や大阪ありきの方が多いように感じます。私は、海外アクチュアリーから、”What are you proud of being Japanese actuary?”と聞かれ、これまで世界の中での日本の立ち位置を意識したことがなかったため非常に驚かされました

 

海外アクチュアリーとの接点が多かったことで、ご自身にどのような影響がおありだったのでしょうか?

  元々損保業界を志望した理由が、日本だけなく世界中の人に広く貢献できるためだったので、自分自身が世界中で活躍できる人材となるべく、先の三つの課題をまずは個人として克服したいと考えるようになりました

 具体的には、経営全体をグローバルな視点で俯瞰できるようになること、および、アクチュアリー技能を一つの軸として海外の人と対等に経営論議ができるようになることを目指すようになりましたこれが海外MBA留学を志願した理由です。さらにいうと、海外子会社のアクチュアリーは会社規模の小ささから色々な仕事を任されていることが多く、会社経営全般に関する知識・経験が非常に高レベルであると感じ、彼らと対等に議論するには自身もハイレベルな視野が必要だと思ったことも一因です。個人として一定克服出来たら、次は周りの人を巻き込んで、日本全体のプレゼンスアップを目指していきたいと考えています

 

 

日本アクチュアリーの国内での地位向上のために、ひいては、国際的な地位向上のために、できることとは?

 国内の地位の観点では、アクチュアリーは自身の価値を発揮しきれておらず、また、アピールもうまくないので、会社・社会からの知名度が低いのだと考えています。例えばCOVID-19で海外のアクチュアリー会は独自の調査レポートを発行し社会に貢献をしていましたが、日本では何故かそのような動きはありませんでした。社会に与えるインパクトが大きくなれば、自然と国内での知名度・地位は上がると思います

  国際的な地位の観点では、英語が苦手な日本人アクチュアリーが多すぎるのと、国内マーケットの特殊性から、米国や英国など諸外国のアクチュアリーと同じ土台で対話をすることができないので、海外の中でのプレゼンスは低いのかなと思っています。現状、日本だと英語での対応ができるだけで褒められることが多いですが、世界で言えば英語で対応できるのは当たり前であり強みでもなんでもありません。試験が日本語であること、金融庁が日本語書類しか認めていないことが原因で、今後ますます諸外国との差は広がってしまうのではないかと危機感を覚えています

 また、IAAの定める新シラバスへの対応が日本アクチュアリー会は遅れていることは致命的かもしれません。ただ、IAAやASTINにて、個人として世界で活躍されている方々はいらっしゃいますので、そう悲観することもないのかなとも思います。

 

 

アクチュアリーとしての専門性を軸に、今後どのような業務にチャレンジされるご予定でしょうか?

  MBAで学んだ知見を活かし、ポートフォリオ管理や戦略立案といった会社経営または保険会社のM&A・事業投資業務にチャレンジしたいと考えています。これらの業務は保険数理と密接に関係していますが、必ずしもアクチュアリーが関与しているとは限らないので、そこに付加価値を与えられると考えています。また、最近は起業にも興味が出てきているので新しい保険ビジネスや関連ビジネスを企画できないかと考えをめぐらせています。 

 

 

MBA留学でのご経験を通して得られた知見、お感じになられたこととは?

  留学して7か月ですが、毎日新しい発見があります。自分に何ができて何ができないか、経営管理全般に関する知識だけでなく、他国の文化・考え方についても驚かされる毎日で、非常に楽しいです。私の通っているビジネススクールには、未来の経営者、例えば、既に経営者だったり、立ち上げを行いバイアウトまで果たしている人もいますし、世の中を引っ張っていくであろう同級生ばかりで、その考え方・ふるまいは非常に刺激になります。総じて同級生はリスクテイカーであり、私自身ももっとリスクをとって新しいことにチャレンジしていかなければと思う日々です。アクチュアリーはリスク分析のプロですが、あまりリスクを取りにいかない傾向があるので、もっと積極的に取りにいくべきなのかもしれません

 

 

アクチュアリーMBA留学をするメリットとは?

  保険ビジネスは他のビジネスと比べかなり特異な業界なため、MBAで学ぶ内容がダイレクトに適用できる部分が多いわけではないかもしれません。また、MBAで習う確率統計・財務会計・経済・ファイナンスは、アクチュアリーであれば既に既習の事項であり、新しい学びもそこまで多くないかもしれません。ただ、逆に言うとアクチュアリーは非常に経営管理に近い職業であると言えます。MBAで学ぶ内容は世界の経営人材の共通言語なため、経営人材を目指す人には最適な場所だと思いますアクチュアリーはとかくアクチュアリー村にとどまりがちですが、MBAに来ればノンアクチュアリーの視点も学べ、また世界のビジネスがどのように動いているのかも知ることができます。海外の成功例を日本に輸入するという考え方もあると思います。MBAは座学だけでなくネットワーキングやsocialの場でもあるので、そうしたソフトスキルを磨くこともできるのはメリットではないでしょうか。加えて、MBAはキャリアチェンジにも有効と言われているので、キャリアチェンジを目指す人にも最適です。

 以上は海外MBAの話であり、国内MBAは多少異なります。国内MBAは世界ランキングでは箸にも棒にも引っ掛かりませんが、そもそも海外MBAとは得られるものも異なるので、世界ランキングだけを鵜呑みにするのではなく、自身のキャリアや私生活を鑑みてどちらの方が自身にメリットがあるのかよく考える必要があると思います。MBAに行かずにそのまま会社の経営管理に携われるチャンスがあるならそちらを優先した方がいいという考え方もありますので、MBAは単なる選択肢の一つして捉えるべきかもしれません。なお、現在海外MBAに留学中の日本人アクチュアリーは私の知る限り5人はいますし、調べてみると海外MBAを卒業しているアクチュアリーは意外にみつかるので、そこまで特異なキャリアではないと考えています。

 

 

今後、海外での経験を持つ日本人アクチュアリーが増えていったとして、日本のアクチュアリー界にどういった影響があるでしょうか?

  各社海外展開を通して人材は増えていると思いますが、前述の課題があるため今後も劇的には増えないでしょうし、あまり大きな影響はないように思います。ただ、そうした人材が自分の周りの人を巻き込んで、あるいは社内で地位のある立場やアクチュアリー会の重職を務めるようになれば、一気に旧態依然とした風土・地位を吹き飛ばせると思います。海外経験のある人材が国内にいれば、外国人も多少は日本の会社で働きやすくなるので、海外アクチュアリーも普通に日本の会社で働いている状況が理想ですね。そうなるとアクチュアリー同士の競争が加速され、より質(付加価値)は上がっていくのではないでしょうか。

 

 

アクチュアリーが、より経営に関わってくることによる今後の影響はどのようなものがあるでしょうか?

  漠然としていますが、アクチュアリーとしての知見を活かしこれまでの経営陣にはなかった付加価値を生み出せるようになると信じています。社会に対する貢献も高まれば、自然とアクチュアリー知名度も上がっていくことになると思います。ただし、そもそもマネジメントが得意あるいはマネジメントに興味があるアクチュアリーは少数派だと思うので、その点注意をしないといけないと思います。専門職業人に求められる技能と(シニア)マネージャーに求められる技能は別物なので、個人としてはその違いを注意し、組織としてはそのような人材を戦略的に育てていかないといけません。これに伴い、アクチュアリー人材育成の在り方も影響を受けてくると思います。

 

 

海外で活躍するアクチュアリーを目指す人にひとこと

  私の場合は海外での実務経験がないので、あくまで海外で暮らしている人間としてのコメントです。目指されている方は何故海外を目指すのかということを明確にすべきかと思います。そこに明確な理由・野望があれば、周りの人も協力は惜しまないでしょうし、やってやれないことはありません。また、世界では自身の専門性は何か、自分に何ができるのか、who you areが問われます。自分はこれだけは負けない!という専門性を磨いておくことをお勧めします。私が本格的にアクチュアリーを目指したのも、(アクチュアリーとは関係ない)会社の海外研修に行った際に、「おまえの専門分野は何だ?」と聞かれ答えに窮したためです。とりあえず試験には合格し無事アクチュアリーを名乗れるようになりましたが、私は実務経験が短くペーパーアクチュアリーでしかないので、今後もみなさんと切磋琢磨していければなと思います。

 

経営により深くコミットするアクチュアリーを目指す人にひとこと

  最近教授に以下を問われました。” Where do you see yourself in ten years’ time? Don’t think in terms of your job. Your career isn’t what you do, but who you are (Advisor? Investor? Professor?). You’ll get to the top. What then?”

  私自身もまだ明確な答えが出せていませんが、どのように社会に貢献・恩返ししていきたいか、ということを考えることが大切だと思います。月並みですが一人ではできないこともみんなで協力すればより大きなことを成し遂げられるようになるので、みなさんと一緒に世界をより良い方向に持っていけたらなと思います。

 

 

【謝意】ご多用にも関わらず、本企画にご協力賜りまして、心よりお礼申し上げます。